「やっと、ここまで来ましたね」
「そうね、タチアナ。今日歩いて、寝て、明日少し歩けばサンドームにつくわ」
「俺の加護である“サンドームの方位を常に知覚する能力”も、そう教えてくれている」
「もう旅も終わりですね、感慨深いです」
「油断するのはまだ早いわ、タチアナ。まだ旅は終わってないんだから」
「あ、そうですね」
タチアナと一行の旅は、もう残すところあと僅かとなっていた。
その日は特に何もなく過ぎ去り、そして、夜。
次の日、少し歩けばもうサンドームというところまで一行はやってきていた。
「では、夜のイベント表を振ってください。まずは」
「はーい。ごろごろごろ」
イベントは“夜営の跡”だった。
うーん、これは比較的安全なイベントだな。
この夜は何も起こらないだろう。
「じゃあ、次は“誰が”チャートどうぞ」
「はい、ごろごろごろ」
出たのは“非人間種族”だった。
ダックやドワーフの時のように、プレイヤーにダイスを振ってもらい、ルールブックの「人間型種族」の欄に載っている種族から選ぶことにする。
「じゃあ、d20振って」
「いやな予感がするなぁ、ごろごろごろ、10です」
その目は……人間か。
って、それじゃダメだろ、非人間種族だって!
「もう一回振って」
「ごろごろごろ、17です」
おっと、さすがにそこまでの種類は無いようだ。
振り直し。
「もう1回振って」
「何が起こっているんだ? ごろごろごろ、7です」
お、そりなりの目。
ようやく、人間以外の人間型種族を引いたか。
こりゃ、たぶんトロウルだな。
ひーふーみのーよ、いつむーなな
えーっと、女王種トロウルか……
げげーっ!?
女王種トロウルーッ!!
そんなのシレっと書いてんじゃねー!
…
…
…
ダメだ、いきなり女王種トロウルが絡んだ展開作るなんて無理だ。普通のトロウルならいざ知らず、女王種トロウルのことなんてあまり知らんからなぁ。
トロウルの強力な奴ということで、格が二三段ぐらい落ちるが、ダークトロウルのルーンロードあたりにしておこう。
ゲームバランス的には、戦うと非常にヤバい相手だなぁ。
うむ、これならなんとかなりそうだ。
よし、そうと決まれば情報を整理しよう。
1.ここにトロウルのルーンロードが、夜営をしていた跡がある
2.トロウルは夜でもソナーを使って行動できる。
3.ここはサンドームのすぐ近くである。
4.トロウルは地界の生き物なので、サンド−ムと仲が悪い
5.夜にはイェルマリオ信者の必殺技、太陽槍が使えない。
こ、この状況は!
ゾラック・ゾラーンのルーンロード「死の王」に率いられたトロウル集団が、サンドームを襲撃しにやってきたようにしか思えねーっ!
イェルマリオ信者とフマクト信者にとってはハメだなぁ、この状況は。
敵を弱くするとか、他の展開を考えるべきだろうか?
…
…
…
いや、ちょっとした旅のはずが迷いまくって変なところに行ったあげくに、ヌルフォースとかに出会って絶望的な気分になったりするのが、ルーンクエストだ! *1
このバランスで良いだろう!
死の王といってもクリティカル2発くらい食らえば死ぬしな!
誰かが口車でなんとかするかもしれんしな!
そもそもトロウルだって気づかないで、無視するかもしれんしな!
やっしゃ、これで行くぜ!
「よし、決定」
「お、ロード終わった」
「君たちは、集団が食事をしたような跡を発見した」
「誰のだろう?」
「そして、サンドームの方に向かって進んでいく集団を遠くに見つけた。では、視力判定どうぞ……成功した? じゃあ、それは牛のようなカバのような巨体の生き物の集団と、あと整然と進む昆虫の群だ。では、グローランサ知識判定どうぞ」
「だめだー、剣呑そうな状況なのに誰も成功しないー」
「じゃあ、君らはそれが何なのか知らないね。どうする?」
「うーん、様子を見るか」
「なんだか、わからんしなぁ」
「タチアナの依頼とは関係なそうだしね」
「……じゃあ、少したつと天蓋領の方から、戦いの音声が聞こえてきた」
「我が天蓋領がーっ! すぐさま向かいます!」
「助太刀するぞ、ジョヴァンニー!」
ジョヴァンニとヴェントは、サンドームの方へと走り始める。
「俺たちはどうする?」
「タチアナの安全を優先しましょう。それで良い? タチアナ?」
「でも、あそこが目的地だから気になりますよ」
「じゃあ、ちょっと遅れてついて行きましょう。それで良い?」
「いいぜー」
「ありがとうございます」
残りの3人も警戒しつつサンドームへと向かうのだった。
ジョヴァンニとヴェントが駆けつけた時、トロウルの集団はサンドームの兵士達を交戦状態に入っていた。寺院の周りを見張るパトロール兵たちと、かけつけた援軍の混成部隊である。
ジョヴァンニとヴェントがついたのは、トロウルの集団の背後であった。2人はそこでひときわ大きなトロウルの影をそこで見つけた。そのトロウルは周りのトロウルたちに指図を檄を盛んに飛ばしていた。
あれがリーダーに違いない!
そう直感した2人は、そのトロウルに挑戦の声を投げかける。
「天蓋領を攻める者は、このジョヴァンニが許さん!」
「このヴェントも助太刀するぞ!」
挑戦の声を投げかけられたトロウルがゆっくりと2人の方を向く。その手に握られた巨大なモールには、3つのルーンが刻まれていた。無秩序・暗黒・死!
トロウルが口を開く。
「自分らが誰に戦いを挑んでいるか教えてやろう。我は、恐怖と死と暴力の支配者、イェルマリオより熱を奪い取りし者、アンデッドの作り手、トロウルの戦神、すなわちゾラック・ゾラーン神の信徒の中の信徒、死の王である!」
「貴様がイェルマリオ様から熱を奪った神の信徒か!」
「アンデッドの作り手、容赦せん!」
「我が位を聞いても退かぬか。良いだろう、相手をしてやる、貴様らと虫は手を出すな!」
死の王は周りにいるトロウルの部下と乗騎である虫たちをさがらせ、モールを構える。ジョヴァンニも槍をかかげ、ヴェントは剣を閃かせた。
そこにアルフォンゾとアマンダ、そしてタチアナがやってきた。
「よし、俺たちも助太刀しよう!」
「しょうがないわねぇ」
「待て!」
戦闘に加わろうとするアルフォンゾとアマンダを、近くに走りよってきたトロウルが制止した。
「我らの死の王は2人の挑戦をうけた。だから我らは戦いに加わらない。だが、お前らも加わるというなら話は別」
「というと?」
「お前らが剣と斧で仲間を助けるのなら、我らもメイスとモールで王を助ける。お前らが呪文を唱えるなら、我らも呪文を使う」
「あら、紳士的対応ね」
「我らが王は誇りにうるさい」
「ただ見守るだけならどうするんだ?」
「我らも見守る。お前らは大地と風の者だから特に殺す気もない。どうする?」
「じゃあ、見てるわ」
死の王と2人の間に緊張がみなぎる。
しかし、戦端はすぐには開かれなかった。
まだ距離があるうちにと考えたのか、3人はまず呪文を唱え始める。
「自分の剣にブレードシャープ」*2
「死の王にデモラライズ くそー、夜じゃなきゃ太陽槍が使えるのに!」
「トロウルは何の呪文を使ってる?」
「死の王はモールに、粉砕」
「粉砕? ブラジオンのこと?」
「いや、違う。粉砕」
「……神聖呪文かっ!」
「その通り、呪文は発動、死の王のモールが黒い光を放ち始めた!」
「う、うぉぉぉ!」
ヴェントのブレードシャープは無事かかった。ジョヴァンニのデモラライズも成功し、しかも死の王の抵抗を打ち破りさえした。
幸先の良い始まりに意気上がる2人。
しかし、それでも勝負は一瞬だった。
モールの一撃でヴェントがまず倒れ伏した。
ジョヴァンニは死の王の一撃を与え、しかもモールの一撃に耐える頑張りを見せたが、その次の一撃でやはり倒された。
死の王は、2人の身体をアルフォンゾとアマンダの方に投げてよこした。
「我はこの2人の無謀なる勇気に敬意を表す。ゾラック・ゾラーン神もイェルマリオから熱の力を奪いはしたが、喰いつくし完全に破滅させることはしなかった。我は神にならい、こやつらの身体を持ち帰るのを許す。自由にするがいい。運良く命をながらえたならば、ゾラック・ゾラーンの恐怖を刻みこまれた心で、残る生涯を過ごさせろ」
そこにトロウルの部下がやってきて告げる
「死の王よ、敵は体勢を立て直しました。援軍もぞくぞくとこちらに向かっているようです」
「そうか、今宵はもう充分に恐怖と殺戮を広めることができた。頃合いだ。戦士と虫を撤退させろ」
「ははっ」
こうしてゾラック・ゾラーンの信徒による襲撃は終わった。
サンドーム全体からすれば、これはちょっとした戦闘にすぎない。しかし、それでも幾人もの兵が殺された。
グローランサは魔法に溢れた世界であり、生き返りの魔法すら簡単にかけてもらえるが、それでも失敗することはある。死者の何割かは生き返ることなく、死者の世界へと向かうこととなるだろう。
サンドームの占領や略奪ではなく、太陽神の信徒に対し死と暴力と恐怖を広めること、それが恐怖と復讐と暴力を司る暗黒の戦神ゾラック・ゾラーンの信徒たちの目的であったのだ。
…
…
…
気が付くと、ジョヴァンニは暗い坂道の途中にいた。
ヴェントが前を歩いているだけで、他の仲間達はどこにもいなかった。
ジョヴァンニがどちらに行くべきか決めかねている中、ヴェントは一人坂を下っていく。その歩みにはわずかな躊躇も迷いもない。
ヴェントとの距離が離れる中、どちらに行くべきか決めかねていたジョヴァンニは、そのとき誰かの叫びを聞いた。
「戻ってこい!」
「まだ行くな!」
「生き返れ!」
それは懐かしい声だった。
次の瞬間、ジョヴァンニは寝台の上で目を覚ました。周りには旅の仲間達とサンドームの旧友達が緊張した顔で集まっていた。
暗い坂道の中、ジョヴァンニが生き返ったことを知ったヴェントは苦笑した。
別れの言葉すらかけずに、一目散に戻っていくとはあいつらしい。
ヴェントは死の神フマクトの信者である。
死を尊重するフマクトの信者に生き返るという選択はない。
グレートソードを取り返すという試練を果たせなかったのが心残りに感じながらも、ヴェントはためらうことなく冥界へと続く坂道を一人降りていくのであった。*3
つづく *1 迷う
箱版ルーンクエストでは迷うと、ひどい場所にいくことがあるのです。
*2 ブレードシャープ
武器の命中率とダメージをあげる精霊呪文。
もしかすると、この時かけてたのは神剣だったかも。覚えているプレイヤーの方がいたら教えてください。
*3 坂道
ゲーム的に冥界がどこにあるのかは、少なくとも『ルーンクエスト90’s』には詳しく書かれていないので、このあたりは冥界に赴いた神々の物語である「光持ち帰りし者たちの探索行」を元に推測して書きました。どうも地下のようではあるので、そこに至る道を坂道とにした次第です。